★★★★★ |
"Oeuvres
pour Piano II :
Images, 1'ère série / Images, 2'ème série /
Rêverie / Deux Arabesques / La plus que Lente / 5 Études /
Masques / L' îsle Joyeuse" (EMI: TOCE-3022)
Samson François
(piano)
日本の批評家間で,印象派の演奏にかけては第一人者と定評があるのがフランソワ。彼の持ち味は,譜面を読んでいるとは思えないその独創性と自由奔放さ。時にはそれが出来不出来の露骨な差になってしまいますが,いい時は,それが曲に全く新たな生命を吹き込みます。最晩年に吹きこまれた彼のドビュッシーは,死期が近いためか,出来にかなりむらがありますが,この第二集はお薦め。『映像』における霊感溢れる演奏の素晴らしさは,いまだ孤高の境地にあって余人の追随を許しません。 |
★★★★☆ |
"Complete
Piano Works"(Denon : COCO-75160-63)
Jacques Rouvier (piano)
フランスの中堅ジャック・ルヴィエのピアノによる4枚組ドビュッシー全集。分売もあります。フランスのピアノ弾きにしては少しばかり粗忽で乱暴なところもありますが,高度な技巧を駆使し,全体にすっきりとして平明な表現のドビュッシーです。小生これまで余り彼のドビュッシーに感心した記憶がないのですが,全集で聴いてみると,中には意外な秀演も。この『映像』はその白眉ともいうべき演奏。粒立ちがよいものの,ドイツ訛で品位を下げたエミール・ギレリスの『映像』(第1集のみ)から欠点をとったような,明朗で正統,中庸な解釈。すっきりとした表情の,現代的な『映像』の模範例だと思います。同曲の数多い演奏の中でも上位の一を占める内容といえましょう。 |
★★★★ |
"Images,
1'ère série / Images, 2'ème série / Children's
Corner" (Deutsche Grammophon : 415 372-2)
Arturo Benedetti Michelangeli
(piano)
『映像』で,フランソワと並ぶ古典的演奏を遺したミケランジェリは,名だたる完璧主義者で,自分の気に入った録音でない限り発売をさせないような超神経質なピアニストだったとか。ほとんどの録音が一発録りで,少々ミスがあろうとも演奏の生気を何より重んじた天才肌のフランソワとは,まさしく正反対です。この『映像』も,まさにフランソワと正反対。細かい運指,ペダル捌き,テンポ取り,ルバートの一つ一つまで緻密に推敲を重ね,100%を狙ったその演奏からは,霊気はまるで感じられませんが,鬼気は存分に伝わってきます。極めて緊張感溢れ,正確で,明瞭。好みは分かれましょうが,『映像』における一つの極みを生み出した演奏として傾聴に値する内容であるのは間違いありません。なお,彼には1964年の海賊音源もあります(Aura: 109-2)。こちらは本盤よりテンポ早く肩の力を抜いた演奏。生気のある演奏ですが,全体に仕上がりが粗いので,一般の方は本盤をお聴きになれば充分でしょう。 |
★★★★ |
"Images,
1'ère série / Images, 2'ème série / Images
Oubliées / Estanpes / Trois Pieces de 1904" (Accord : 242092)
Philippe Cassard (piano)
フィリップ・カッサールは1962年生まれのフランスのピアニスト。国立パリ高等音楽院で学び,ダブリン国際ピアノ・コンクールで優勝したピアノ奏者です。1990年代以降に録音された中では,最も個性的で面白みのある『映像』ではないかと思います。没個性的なピアノ弾きが多い中,まだ若い彼は覇気と怖い物知らずな自信があるのでしょう。大袈裟なルバートを駆使してみたり,大仰な強弱の振幅をつけてみたり,レガートからスタッカートへの天の邪鬼な読み替えを行ったりと,かなりエキセントリックで癖のある弾き方を見せます。懐の深い『映像』ではそうした面が良い方に働いて,なかなかの好演に。わけても『水の反映』はちょっとした名演と呼べる出来映えではないでしょうか。上記3枚を既にご存じの方はどうぞ。 |
★★★★ |
Claude
Debussy "Estampes / Pour le Piano / Images 1're série / Images
2e série" (Lyrinx
: LYR 1148)
Jean-Claude Pennetier
(piano)
ロン(第2位)ジェネバ(優勝),モントリオール国際(優勝)など輝かしい経歴を誇りながら,あまり知られていないペヌティエのドビュッシー。いかつい御尊顔からは想像できぬほどふくよかで繊細。テクスチュアに富み,訥々と語り掛けるピアノ。こういう種類の演奏は最近少ないのですが,テオドール・パラスキベスコに通じる職人芸的なピアニズムと申せましょう。そしてまた,そうした個性に実に好く合った曲を選んできたなという印象です。地味なようでいて,ずっしりと重量感に富んだ巧みなペダル捌き,巧みな音圧の掛け分けによって陰影に富んだ心象風景をあらわす巧みなアルペジオ,重みと含蓄豊かなルバートと個性溢れ,ドビュッシーのピアノ盤で久々に説得力ある演奏を聴かされた気がいたしました。既にお年なので,若干細かい技巧にはアラがあるものの,抜群の包容力が補って余りあります。2枚目以降としてはお薦め。 |
★★★★ |
"Images
1 ere, 2ème livres / Berseuse Héloïque / Children's
Corner (Debussy) : Ma Mère l'oye / Habanera (Ravel*)" (Calliope : CAL 9832)
Théodore Paraskivesco
(piano) Jacques Rouvier (piano)*
現在は教育者として,パリで悠々自適の日々を送っておられるパラスキベスコ氏は,今やまるっきり録音が出なくなってしまいました。彼のドビュッシー録音である本シリーズも,『前奏曲集』と『練習曲集』はもはや入手至難。内容が大変に好いピアニストだけに,勿体ない話だと思います。小生も漸く,本CDまでは入手できましたが,某ベロフや某ギーゼキングがいつでもどこかから出ていて,安易に掴めるところにあるのに比して,余りに不幸な現状だと思います。彼のドビュッシーは教育者らしく,徹底的な譜面の読み込みによって支えられた,極めて丁寧な解釈と演奏が持ち味。ミケランジェリにはない,積極的な美点の大きさが魅力です。この『映像』も,彼らしい,くっきり明瞭でいて柔らかさを失わない打鍵と丁寧に読み込まれた説得力あるルバートが見事。極めてデリケートな演奏となっています。惜しむらくは『葉末を渡る鐘の音』でしょうか。5分40秒は幾ら何でもテンポが遅すぎると思うのですが如何? |
★★★★ |
"Images
1er, 2e Livre / Le Martyre de Saint Sébastien / Masques / Estampes
/ Hommage à Haydn / Berceuse Héroïque"
(Erato : 3984 26754 2)
Alice Ader (piano)
ドビュッシー弾きとしては,久しぶりに大当たりの名手です。いまだに詳しい経歴は不明ながら,演奏から伺う限り,彼女は現代音楽系のピアノ弾きではないでしょうか。特にリズム面の解釈が非常に独創的。このあたりの持ち味は,同じく現代音楽家のブレーズととても良く似ており,彼の振ったドビュッシーに感じる,あの鉄のようにひんやりとしていながら滑らかで艶めかしい響きが,そのままアデルにも当てはまる。ブレーズ同様,オーソドックスな演奏からはかなり逸脱していますので,初めて聴く方よりは,既に幾つかこれらの曲を聴いていて,『映像』や『版画』の“メタ表象”が脳裏に形成されているという方のほうに,極めて深い洞察を与えるのではないかと思います。1999年録音の前奏曲集に対して,こちらは8年前の録音なためか,運指の粒立ちも素晴らしく良い。少し粗忽なところもありますが,この10年に出た録音としては最上の部に属するのではないでしょうか。 |
★★★★ |
"L'oeuvre
pour Piano" (Erato
: 4509-94827-2)
Monique Haas (piano)*
フランスの名女流モニク・アースは,晩年になってラヴェルとドビュッシーのピアノ曲集をエラートに遺していってくれました。特にラヴェルは仏ディスク大賞を取ったほど高レベルの演奏です。彼女のドビュッシーは,フランス人とは思えないほどくっきりとした運指と,中様な作品解釈が魅力。年齢のせいか細かい弾き間違い(明らかなミスタッチというより,指のロレツが回らず,音符が潰れたようになるものが多いです)が散見され,Bのクライマックスではアラが露呈してしまいますが,的確なテンポ取りと効果的なペダル使いで巧さを発揮します。そんなこの盤にはしかし,致命的な難点が。ラヴェルもドビュッシーも,録音が悪いのです。ノイズがあるわけでも,モノラルなわけでもないのですが,ピアノの音が汚い!中域が異様に膨らんだ中年太りのオヤジのような集音で,おまけに音が割れている。せっかくの演奏が,この醜悪な録音で台無し。天は二物を与えず,ではありませんが,この難点は覚悟してください。これさえ我慢すれば,貴兄のライブラリに素敵な選択肢が加わることでしょう。 |
★★★☆ |
"Children's Corner / Images I, II / from Préludes book I"
(Aura : AUR 225-2)
Arturo Benedetti Michelangeli (piano)
20世紀を代表する名手ミケランジェリは,1968年以降イタリアへ移住し,後年は彼の地を拠点に活動。多くの録音を残します。Auraから復刻された本CDもその一つ。有名なグラモフォン録音と同じ選曲ながら音源は別もので,『子どもの領分』は1968年,『映像』は1987年,『前奏曲集』は1977年に吹き込まれたものです。彼が世を去ったのは1995年でしたが,最後のリサイタルはその2年前の5月で,オール・ドビュッシー・プログラムだったとか。寡作家で知られる彼がドビュッシーを最初に採りあげたのは1937年のこと。一躍有名を馳せたジェネバ国際の優勝よりもさらに2年前のことでした。ここに収録された3作品は,彼のライフワークでもあったわけです。イタリアの僻地?でのライヴから吹き込まれたものだけに,集音は決して誉められたものではなく,特にペダリングがぼんやりと聞こえてしまうのは残念(ペダリングの精妙さが要求されるCなどに顕著)ですが,演奏はといえばとても後年のものとは思えないほどレベルが高い。特に,有名なグラモフォン録音とほぼ同時期の『子どもの領分』は本家盤よりもアニマと遊び心に富んだ素晴らしい演奏です。最晩年の『映像』は,さすがに技巧がやや怪しくなり,速いバッセージでは運指のロレツが回らなかったり,リズムの輪郭が崩れたりする瞬間がちらつくものの,ゲルマン的な格調と襟の整った鞭のようなルバートが高いレベルで調和した秀演。間違いなく買って損はありません。 |
(評点は『映像』のみに対するものです。)