ピアノのために
Pour le Piano




曲目 :
@ 前奏曲 prélude (充分に生き生きと,リズミカルに assez animé et très rythmé
A サラバンド sarabande (優雅な落ち着きと,ゆるやかさをもって avec une élégance grave et lente
B トッカータ toccata (活発に vif


 (全3曲)



概説 : 
1894年(第2曲のみ),1901年の作品。『舞曲』,『ロマンティックなワルツ』,『マズルカ』などの小品を除くと,ドビュッシーが作曲したピアノ作品としては,『ベルガマスク組曲』に続く本格的なピアノ作品集。ラヴェルの『クープランの墓』に通じる古典趣味の標題をとり,ドビュッシーの作品中では擬古典的な傾向を示すが,形式的な曲想の中にも,全音音階的進行による完全5度,4度,導音の回避によって機能和声からの解放をはかるなど,既に印象主義的な書法が十全に展開された充実の作品となっている。3曲からなり,『忘れられた映像』(1894年)を一部改作して用いられた,瞑想的で優雅な佇まいの第2曲を,色彩的で技巧的な第1曲,第3曲が挟む形を取る。作品は1901年1月,国民音楽協会定期演奏会でリカルド・ヴィーニエスによって初演され,好評を以て迎えられた。自筆譜はグリュンバシェ(Grumbacher, R.)博士私蔵。



作曲・出版年 作曲年: 1894年〜1901年。
出版: 1896年(『忘れられた映像』一曲の改作,第2曲のみ),グラン・ジュルナール誌上。全曲版は1901年,フロモン社。
編成 ピアノ独奏
演奏時間 約4分(第1曲),約5分(第2曲),約4分(第3曲)
初演 リカルド・ヴィーニェス(ピアノ)。1902年1月,国民音楽協会定期演奏会。
推薦盤

★★★★★
"Complete Piano Music vol. 1 :
24 Préludes / L'Isle Joyeuse / Images Livre 1 & 2 / Estampes / Children's Corner / Pour le Piano / Deux Arabesques / Mazurka"
(Philips : 438 718-2)

Werner Haas (piano)
最もフランス的な印象派の演奏に,他の国の演奏家の演奏はなかなか合いません。殊にゲルマン系の演奏家が印象派をやると,どうしてもドイツ訛りが入ってしまい,頑迷な八の字髭の校長先生が,しかめつらしい顔をしつつ,無理にディスコ音楽を踊っているような,場違いで空々しい演奏になってしまいがちです。しかし,『ピアノのために』はドビュッシーのピアノ作品の中でも比較的初期のものであり,『トッカータ』や『サラバンド』というタイトルが示すとおり,やや構築的で古典的な書法で書かれた作品です。こういう作品では,余計なルバートやペダルの美辞麗句を並べ,バタ臭く装飾しないピアニストが合うのも道理というものでしょう。オーストリア出身で,高度な技巧を持つピアニスト,ハースはまさに,そうしたすっきりとした表現が魅力のピアニストです。彼の全集中でも,『ピアノのために』は,彼の持つ好い面が,曲想と最も良くマッチした秀演。原曲の持つ古典的な様式美をくっきりと浮かび上がらせた,明晰極まりない演奏です。

★★★★
"Pour le Piano / Estampes / Suite Bergamasque / Nocturne / Six Epigraphes Antiques" (Calliope : CAL 9833)
Théodore Paraskivesco (piano) Jacques Rouvier (piano)*
1970年代の後半に登場,一般に大きな話題を得ることこそないものの,識者から識者へ脈々と聴き継がれ,知る人ぞ知るドビュッシーの隠れ名演奏家の1人となっている,テオドール・パラスキベスコの選集からの分売です。上にご紹介したペヌティエ同様洒脱さは乏しいものの,重厚さと抑揚に溢れ,スタッカートを活かした,木目調の質感に富むピアノ。全体に遅めのテンポで一見地味ですが,真摯に推敲された曲解釈と演奏には,伝統工芸の職人が精魂込めた,手製の陶磁器のような深みがあります。この盤の白眉はむしろ,『版画』や『ベルガマスク組曲』のほうですが,『ピアノのために』もなかなかの秀演。少々遅めのテンポで,ややテンポ・ルバートが大袈裟ではあるものの,厚みのある打鍵が醸し出す荘厳な響きが,単なるムード・ピアノとは明瞭に一線を画した彼の音世界を明らかにしています。

★★★★
"Children's Corner / Estampes / Suite Bergamasque / Pour le Piano" (Seraphim : TOCE-7177)
Samson François (piano)
日本の批評家間で,印象派の演奏にかけては第一人者と定評があるのがフランソワ。彼の持ち味は,譜面を読んでいるとは思えないその独創的な解釈と,ほとんど一発録りで録音されたというその奔放で霊感溢れる演奏にあります。時にはそれが出来不出来の露骨な差になってしまいますが,いい時は,曲に全く新たな生命を吹き込む演奏となります。最晩年に吹きこまれ,結局演奏者の死によって未完に終わってしまったフランソワのドビュッシー集は,死期が近いためか,出来にかなりむらがあります。彼の選集からの分売であるこのCDも,『子どもの領分』や『ベルガマスク組曲』は解釈が行き過ぎていたり,技巧の衰えが見え隠れする内容。しかし『版画』,『ピアノのために』は秀演です。ときに大袈裟なテンポ・ルバートは気になりますが,天才肌のフランソワらしい,テンペラメンタルな魅力溢れる演奏と申せましょう。

★★★★
Claude Debussy "Estampes / Pour le Piano / Images 1're série / Images 2e série" (Lyrinx : LYR 1148)
Jean-Claude Pennetier (piano)
ロン(第2位)ジェネバ(優勝),モントリオール国際(優勝)など輝かしい経歴を誇りながら,あまり知られていないペヌティエのドビュッシー。いかつい御尊顔からは想像できぬほどふくよかで繊細。テクスチュアに富み,訥々と語り掛けるピアノ。こういう種類の演奏は最近少ないのですが,テオドール・パラスキベスコに通じる職人芸的なピアニズムと申せましょう。そしてまた,そうした個性に実に好く合った曲を選んできたなという印象です。地味なようでいて,ずっしりと重量感に富んだ巧みなペダル捌き,陰影感に富んだ心象風景をあらわす巧みなアルペジオの音圧の掛け分け,重みと含蓄豊かなルバートと個性溢れ,ドビュッシーのピアノ盤で久々に説得力ある演奏を聴かされた気がいたしました。既にお年なので若干細かい技巧にはアラがあり,また,『トッカータ』において,少々不自然なルバートが見られるものの,抜群の包容力を持った演奏です。

★★★★
"Debussy Solo Piano Music vol. 2 :
Estampes / Ballade / Masques / Children's Corner / Berceuse / Danse / Nocturne / Pour le Piano / La Plus que Lente / Études / L'isle Joueuse / La Boîte à Joujoux"
(Vox : CDX 5063)

Peter Frankl (piano)
ヴォックスはニュージャージーに本拠を置くエセックス・エンターテインメントの系列会社で,マイナー演奏家の旧譜を掘り出してきては,ナクソスも真っ青の価格で投げ売りするゲリラ企業。廉価ということで中には酷いものもありますが,ピアノものには意外な名盤も眠っており侮れません。この盤もそうした一枚。演奏者のフランクルはハンガリーのピアノ弾き。この録音後,請われて教育の世界に転向してしまったので,知名度は上がらぬままですが,元々はパリ,ミュンヘン,リオの国際コンクールで優勝した経歴の持ち主。無駄なペダルに逃げず,スタッカートの響き一本で飄々訥々と味のある演奏を披露する,なかなかに男気のあるピアノです。『ピアノのために』でも,ハース盤に勝るとも劣らない絶妙な解釈を披露しますが,高揚が頂点に達する『トッカータ』のフォルテ部分でミスタッチを連発するのが何とも残念。もしそれが無かったら,五つ星でもおかしくない演奏です。この高レベルの演奏で2枚組1500円以下。ただただ安い!
 (評点は『ピアノのために』のみに対するものです。)

(2001.8.10)






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