推薦盤 |
★★★★★ |
"Shéhérazade / Trois Poèmes de Stéphane
Mallarmé / Chansons Madécasses / Don Quichotte à Dulcinée
/ Cinq Mélodies Populaires Grecques" (CBS : MK 39023)
Pierre Boulez (dir)
Jill Gomez, Jessye Norman, Heather Harper (sop, msp) José Van Dam
(btn) BBC Symphony Orchestra : Members of the Ensemble Inter-Contemporain
世界的な指揮者であると同時に,自らも現代音楽の作曲家・理論家として活動してきたピエール・ブレーズ御大。当然の如く近代音楽に対しての理解も造詣も深く,積極的に録音を続けてきました。近年,円熟味を増してからの彼は,その表現も随分穏やかになりましたが,この録音当時はまだバリバリの現代音楽界の寵児。巷に溢れた『マラルメ』のほとんど全部が緩い甘さへと流れるのに比して,ブレーズの解釈はどこまでも妖しく,どこまでも冷徹で鋭敏。この曲が持つ東洋的で幽玄な思索性を余すところなく捉えた名演です。怖ろしく厳しい指揮者に叱咤され,必死の形相で一糸乱れぬ合奏を披露するアンサンブルの緊張感もさることながら,本盤を価値あるものにした最大の要因は,ジル・ゴメスの鬼気迫る怪唱。ときにヒステリックな叫声が,却って甘美な緩唱部の妖艶な美しさを立体的に浮き上がらせるのです。 |
★★★★ |
"Trois Poèmes (Ravel) Chanson Perpétuelle (Chausson)
Trois Chants de Noël (Martin) Quatre Poèmes Hindous (Delage)
Une Flûte Invisible (Saint-Saëns) Rapsodie Nègre (Poulenc)
La Bonne Chanson (Fauré)" (Grammophon : 447 752-2)
Anne Sofie Von Otter (msp) Bengt Forsberg (p) Nils-Erik Sparf, Ulf Forsberg
(vln) Matti Hirvikangas (vla) Mats Lindström (vc) Tomas Gertonsson
(b) Andreas Alin, Peter Rydström (fl) Ulf Bjurenhed (ob) Lars Paulsson,
Per Billman (cl) Lisa Viguier (hrp)
グラモフォンから精力的にCDを発表しているオッター女史の珍しいフランス歌曲選。大同小異な他の歌手のものの中では,多分一番お薦めできるものじゃないでしょうか。冒頭の弦のグリッサンドがやっぱり一本調子な@,反対に無用な表情を付けすぎるAなど,室内楽の伴奏が場違い感をさらけ出すのは他盤と大差なし。お薦めの理由は,一にも二にもオッター女史の声質と技量。メゾ・ソプラノであるオッターの低く影を帯びた声は,物憂い恍惚感を持ったこの曲に好く合いますし,単純に歌手としての技術力という点では,最上クラスに位置するものでしょう。問題があるとすれば,オッター女史の「歌い方」です。技術が素晴らしくても,その引き出しの中から曲に合わせ,どの歌唱法をどの旋律に当てはめるかは,最終的には個人の問題でありセンスの問題です。オッターは,どの旋律に対しても落ち着いたビブラートで表情を整えて歌う。このため,出来上がりが極めて美麗で静謐にも拘わらず,画竜点睛を欠いてしまうのです。 |
★★★☆ |
"Musique de Chambre" (EMI : 7243 5 69279 2 6)
Jean-Christophe Benoit (btn) Jean-Pierre Jacquillat (cond) Annie Challan
(hrp) Fernand Caratgé, Robert Rochet (fl) André Boutard (cl)
Georges Tessier, Pierre Simon, Christian Ferras, Gérard Jarry (vln)
Colette Lequien (vla) Michel Tournus, Robert Bex, Guy Fallot (vc) Pierre
Barbizet, Georges Pludermacher, Eric + Tania Heidsieck, Monique Fallot
(p) Ensemble de Solistes de l'Orchestre de Paris : Quatuor Parrenin
EMIのラヴェル室内楽曲選には2種類あり,もう一つはプラッソン/トゥルーズ管の構成員が絡んだもの。こちらは華のパリ楽壇のメンバーが集まって制作したもので,ジャキャ,バルビゼ,プリューデルマシェ,シャランらそうそうたる顔触れが名を連ねています(フレム室内楽作品集で顔の見えたロベール・ベーの名前もある)。しかし,なぜか演奏は格落ち。プルデルマシェは踏みすぎますし,ヴァイオリンはパリ楽壇らしく紙がかった(笑)ハスキーな音色。明らかに時代と共に風化するタイプの典型というべき内容でしょう。しかし,そんな中唯一面白く聴けたのが,珍しい男声の『マラルメ』と『マダガスカル』。何しろブレーズ/アンテルコンテンポラン盤が余りに透徹しており,他を寄せ付けないこの演目で新手を期待するのは殆ど不可能。実際伴奏陣の演奏はここでも,ブレーズに比べ一本調子で深みに乏しい感が拭えません。しかし,意外にもこの男声という変則技が功を奏します。ゴメスの狂気じみた美しさとは違う,ゆったりとイスに持たれるような余韻をたたえたベノワの歌い回しの心憎さだけで聴く盤です。う〜ん,こんな変則技でもない限りブレーズと比較に堪える演奏なんて無理でしょうなあ・・ |
★★★ |
Acoustic Triangle
"Interactions" (Audio-b : ABCD 5012)
@trois poemes de Stéphane Mallarmé (Ravel) Athe glide Baround in three CBill's way Devansong Eflying machine FCorinna bossa nova Gwinding wind Hsly eyes: tango Iepilogue
Malcolm Creese (b) John Horler (p) Tim Garland (ss, ts, b-cl)
おまけついでにもう一枚。地味エヴァンス派の好内容作『ロスト・キーズ』が印象に残る英国の好々爺ジョン・ホーラー氏が2001年に吹き込んだ,珍しいジャズ版『マラルメ』です。ご高齢なうえ,タイム感や運指技術においてさほど秀でているとは言えない彼は,太鼓の入った普通のリズム隊が後ろへ回ると,リズム・キープで手一杯になってしまい,演奏が小さく窮屈になってしまいます。本盤で言えばリズムのソリッドなDEGHがそうですか。実際,同盤に続いて取り組んだスポットライト盤は散々な結果でした。恐らくその反省があったのでしょう。その後発表した『ユニティ』は,フィル・リーを迎えた二重奏とし,タイムに追われることなくしっとりバラードを弾いて,なかなかの成果を挙げていました。2001年に出たこのアルバムも,やっぱりベースと木管の三重奏。自分の弱いところを良く理解しての仕事選びなのは,これで間違いないでしょう。これぞプロの鏡,さすがです。実際,無粋に時間軸を裁断してしまう太鼓を除けると,この人のピアノは別人の如く自由になります。加えてティム・ガーランドの木管が実に良く鳴っている。こんなに巧い人だと意識したことはありませんでしたねえ。本盤で一番驚いたのは,何と言ってもマラルメを演っていることでしょう。ジャズを聴くようになって随分経ちますが,こんな無謀な挑戦をしたジャズメンはちょっと記憶にないですねえ。やっぱりジャズを越境するからには,「ラヴェルから1曲」といわれてマラルメを選ぶくらいの見識・審美眼がないと駄目なんですよ(笑)。随所に,原曲を壊さぬ程度のリハモ,即興やオブリガードが施され,実に手堅い。確かに,原曲の凝った旋律をなぞるのに手一杯で,いわゆる明示的な即興は少ないですが,それを取って「ジャズじゃない」なんて野暮を仰る方は,マラルメとブルースの両方を聴きながら,一節唸ってみる(または即興演奏する)ことを奨めます。 |
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